軸受鋼球へのナノ粒子分散セラミックコーティングによる摩擦低減
当研究室では、アルミニウムの溶融と酸化を利用して、酸化物ナノ粒子を含むコーティング層を合金表面に接合させるための技術開発を行っています。この技術は、アルミニウムの融点が660 ℃であるのに対して、これを酸化させて酸化アルミニウムにすると、その融点が2050 ℃にまで上がることを利用しています。すなわち、2050 ℃以上の高い温度まで溶けないような接合層を700 ℃程度の比較的低い温度で形成させるという画期的な技術であり、本研究室の重要な特許技術となっています。
しかし、酸化物の膜は、合金表面に接合させると、合金との熱膨張率の違いのために、加熱と冷却を繰り返している間に割れや剥離を生じてしまうリスクがあります。当研究室ではこのリスクを回避する手段として、酸化物の膜に多数のマイクロクラックを導入する技術を研究しております。このマイクロクラックの導入には、酸化物を還元すると膨張し、酸化すると元に戻るという現象を利用しています。これにより、図1に示すような表面形状をもつ膜を形成することに成功し、繰り返しの加熱と冷却に対する耐久性を向上させました。
なお、本研究は2021年度JKA補助事業2021M-214の助成を受けて行われました。
また、この技術には副次的な効果がありました。この酸化物膜を合金表面に形成させることにより、高炭素クロム軸受鋼球に対する合金表面の摩擦係数が小さくなったのです。
この結果を受けて、図2のような軸受をターゲットにした研究を本格化させました。現在までの研究で、ゾル-ゲル法と電気泳動堆積法の成膜技術を駆使して、軸受鋼球表面に図3のような酸化物の膜を形成させました。今後の研究で、この酸化物の膜の厚さを均一にすること、この酸化物の膜に多数のマイクロクラックを導入して耐摩耗性を向上させることを目指しています。